◆講演会「手術ロボットの現状と将来」聴講記◆

☆このレポートは、去る2020年10月17日(土)、東京大学ホームカミングデイ(東大HCD)に合わせて当会が開催した赤門技術士会ライブ講演会(Webによるライブ配信)の聴講記です。

 

今日の講演会は、赤門技術士会始まって以来のWeb講演。大学の先生だから、専門性の高い難しい講演かなぁ・・・・・ 始まった!

 

いきなり「スーパーマイクロサージェリー」って、何?

「たとえば、脳の1ミリ以下の血管をつなぎ合わせたり、数十ミクロンの目の血管に針を刺して薬を注入したり、小児外科で新生児のおなかの中、つまり卵ほど、の小さな空間で縫い合わせたり」

だって。

超微小手術、かな。具体的に教えてもらえそう。

 

眼科手術、その「目」の例だ。

「血管の太さ数十ミクロンですので、要求される位置決め精度は10ミクロン、手ぶれが100ミクロンぐらいです。したがってこの領域になると、支援システムつまり、機械を介した手術が必要なんです」

そりゃそうだ。だけどどうやって?

「例えば、医師側の操作装置を40ミリ動かすと、手術側のロボットが1ミリ動く、といったような格好で実現します」

なるほど。

 

次は脳神経外科の例。

「1ミリ以下の血管で10カ所の縫合が必要」

ケガで10針縫ったといったら、大けがの部類。極細の血管なのにそんなに縫うんだ。

「従って手術の自動化の要請が高い。そのためには、針や鉗子がどこにあるかの自動認識と、どこに動いているかのトラッキングが必要になってきます」

 

小児外科(狭い場所での手術)の例。

「とにかく小さく器用に動く鉗子が必要です。つまり軸の異なる方向の動く多自由度の鉗子。ただし、部品が小さくなると壊れやすい」

なるほど、適用される手術やその必要要件は判った。

 

「これらの市場は、年平均11.6%の伸びが期待されています。2020年に1,430億円規模。産業用ロボットに強い日本は、既に実用化されている米国の手術用ロボット『ダビンチ』より小さい手術をめざしていきます。コア技術は、安全性、センサ・小型、直感的操作などです」

うん、これは「摺り合わせ」につよい日本が強みを発揮できる分野だ。期待大!

 

続いて、各大学で工夫が続いている様々な手術用ロボットのためのキーユニットのご紹介。

「柔軟メカニズムを利用したシンプルな構造のスマートツールを使った小鉗子」

うまくできてるなぁ。。。。進化形は、直径3.5ミリとか2ミリとかの鉗子だって、びっくり!

「糸を挿して結んで切るという従来の操作を一変する縫合ツール」

ホッチキッスみたいにパチンだ。

「ダイヤフラムと光ファイバを組み合わせた圧力センサ」

何と米粒大!

「右鉗子と左鉗子の衝突検出機構」

施術者である医師が間違えてもぶつからない!

 

なんとなく判ってきた。では、それらの工夫を使って、どんなことができるの?

「たとえば、遠隔手術です。僻地、離島、被災地などが想定されます。チームワーク医療も可能になってきます」

なるほど。

 

「ここまでのお話は、医療用ロボットの言わば第1世代でした。

これらに続く第2世代として、次のような事が考えられています。

キーワードは運動・変形のリアルタイム撮影、細胞レベルオーダー、マイクロバブル援用強力集束超音波(HIFU)治療などです」

最後のHIFUって、すごい。結石を超音波で破壊するのは知ってたけど、マイクロバブルを発生させて結石の近くで破裂させそのバーストエネルギーで結石を破壊するんだって。本当にすごい。

 

「そして、第3世代としては、ドラッグデリバリシステム、診断と治療の自動化、マイクロロボットです」

最後のマイクロロボットって、血管中でカプセルを移動させるんだ。かつての映画「ミクロの決死圏」そのもの。外部磁場によって移動を制御するんだって。

 

「以上、手術用ロボットの特徴をまとめると、①狭い箇所の手術、②微細な手術、③正確な手術、④遠隔手術、でした」

 

最後にAIを活用した医療診断システム・医療機器のお話だ。

「現在PMDA(医薬品医療機器総合機構)のAI専門部会で議論されている内容です。

検討すべき切り口として4つ上げられています。

 ①可塑性:認可した後に性能が変化する可能性

 ②ブラックボックス性

 ③将来の高度の自律性

 ④学習に使用するデータの品質」

可塑性というのは、ワープロソフトの仮名漢字変換が変化するのとの近似とのこと、良く判る。

「医療ロボットのレベルにも、レベル1~5があります。」

これも自動車の自動運転システムのレベルと対比しての説明に、なるほど。

 

「以上、AIを活用した医療システムをまとめますと、今後重要となる点は次のとおりです。

 ①未知の入力に対する振る舞いの予測困難

 ②学習により変化する可塑性

 ③学習に使用するデータの特性や信頼性の確認とシステム性能への影響評価の必要性」

 

講演前の心配は、吹っ飛び、門外漢の筆者でもちゃんと判る講演!

資料は自宅のパソコン画面に大きく表示され、見やすかったし、先生の声もすぐそばで聞こえるようで、Web講演もまんざらじゃない。満足、満足。

たったひとつ、先生の講演後に拍手が届かなかったのが、心残り。

 

赤門技術士会、今回もなかなかの講演を企画してくれました。次のイベントも楽しみ!!! (おわり)

 

(文筆:技術士 萩野新)