◆2021年度東京大学ホームカミングデー・赤門技術士会講演会「千年に一度の自然災害多発時代に、地盤リスクとどう向き合うか」聴講記◆

☆このレポートは、去る2021年10月16日(土)開催された東京大学ホームカミングデイ・赤門技術士会講演会の聴講記です。

 

〔今年もコロナ禍が続いて、オンラインのホームカミングデー講演会に。顔を合わせて講演会が出来るまで、もう少しの辛抱・・・・・、などと考えていたら、講演が始まりそうだ。 直近に熱海の土砂災害もあり、この分野の関心も高い。〕

 

1.千年に一度の自然災害多発時代

(1)日本の位置づけ

4つのプレートが重なる地盤、アジアモンスーンの通り道、など自然災害が多い。地震、雷、火事、親父。親父だけが弱くなった。〔耳が痛い。。。。〕

自然災害には周期がある。100年ごとに小ピーク、1000年ごとに大ピーク。東日本大震災のまえは、貞観の富士山噴火で約1000年前。豪雨、豪雪、地震、火山噴火など。治水・治山は古代より国を治める重要な国家事業だった。〔そうだと思う。大和朝廷も、鎌倉幕府も、戦国武将も、徳川幕府も。最近の総理大臣が海外

の首脳の質問に答えていた。「日本は、自然災害の多い国で、人々が助け合わないと生きてゆけなかった。」まさに!〕

(2)人口と自然災害

火山噴火、隆起、活断層で地震、地滑り、崖崩れ、土石流、陥没・・・・・・人口が増えるとリスクが増す。〔まさにっ!SDGsの最大きっかけも、人類の急激な増加だ。〕

(3)減災の知恵(自然災害伝承碑)

2019年の19号台風で千曲川が決壊し、新幹線の車両基地が水没した。災害伝承碑(洪水碑)があるにも関わらず基地を作ってしまっていた。神奈川県の例では、高度成長前には崖下には住宅地はなかったが、成長に従って危険な地形に人が住まいだして、崖崩れにより死亡災害が起こった。古代の東海道は足柄峠を越えた。富士山噴火によって通れなくなり、南側の乙女峠を越えた。鎌倉時代には更に南の尾根道、江戸時代には更に南の川沿いの道になった。一方、現代の東名・新東名高速は足柄峠。富士山が噴火すれば、大きな損害を受ける。〔うへっ、大動脈の東名高速は、ヤバいんだ!〕

 

2.地学は防災学である

(1)地学教育が危機的状況にある

過去をひもといてゆくと、現在がわかる。地形・地質の基本知識の上に、工学的な知識応用性が問われる。しかし、現在高校の地学Ⅰの履修率は3%と理科の7科目の中で最も少ない。深刻な状況である。そこで、以降、少し紐解いてみる。〔図星! まさに、筆者も高三で物理と化学の履修クラスだった。〕

(2)気象の変化

地球では寒暖が交互に現れている。現在は縄文海進から冷えてきて、温暖化に逆転するところ。このような過渡期には、豪雨がきたり、渇水が続いたりしやすい。

(3)プレートと地質

日本のあたりは、プレート移動による沈み込みと、その上に張り付いている付加体地質が引きずられて、不安定。

(4)気候変動とプレート運動

現在は、気候変動とプレート運動の両方のリスクが重なっている。〔とんでもない時代に生まれたもんだ。〕

 

3.自然災害・地盤事故が起こる原因と事例

(1)自然災害・地盤災害はどうして起こるのか

素因と誘因で起こる。素因とは地盤の持っている弱いところ(地形、地質構造、地下水など)。誘因とは、災害のきっかけ。豪雨、地震、火山噴火など。両方とも不確かなもの。危ないところは、火山の周り、崖、湿地、旧河道など。古代、人は住んでいなかったが、現代では住みだしてしまった。人間が作った人工改変も悪さをする。宅地造成による崖が崩れるなどで何度も死亡災害が起こっている。〔こうなってくると、自然災害とは言え、「人災」に近くなってくる。〕

(2)2021年熱海の実例

元々がかなり古い時代の大崩壊跡に出来た谷で起こった。上流の盛り土の崩壊のそのまた原因は、大量の地下水。2019年の19号台風の時は、一山違うだけで、雨量が少なかった。ただし、このとき下部では小さな崩壊が始まっていた。もし19号台風後に点検をしていれば、危険が予測出来たはず。

(3)地震災害

活断層が繰り返す活動して、人の住みやすい日本の平野や盆地ができた。しかし、平野や盆地に多くの人が集まると将来活断層がずれると被害が広がる。特に、活断層の上の建物は危ない。火山噴火も予測が難しい。白根山の噴火は、予想と違う場所で起こった。〔活断層の上にあったお寺が傾いた写真は鮮烈だ!!!〕

 

4.自然災害時の住民避難

(1)失敗例

・2009年の豪雨で、佐用町の避難所へ向かう途中に5名が用水路にながされた。

・土地が空いているからと、土石流がくる場所に家を建てしまっていた。2020年岐阜県豪雨で3名死亡。

(2)成功例

・2018年西日本豪雨で、頑丈な倉の二階で助かった。

・2029年東日本豪雨で、水平避難、垂直避難で助かった。

(3)教訓

・避難所は、土石流が押し寄せた例もあり、必ずしも安全とは限らない。

・「谷渡しに家をたてるな」

〔ほんのちょっとの行動差が、人の生死を分けるんだ。 恐るべし。〕

 

5.自然災害事例と地盤に係わる法令

予防が中心。事後処理は訴訟。法令は、災害発生の翌年に作られることが多い。砂防法、都市計画法など、様々。災害発生に応じて、改正も多い。〔おー、宅地造成等規制法とそのガイドラインができて、劇的に土砂災害が減ってる。〕

 

6.自然災害のハード対策とソフト対応

(1)ハード対策

急傾斜に対するコンクリート壁、地滑りに対するアンカー工(こう)・排水ボーリング工、砂防堰堤、治山ダム。熱海でも砂防ダムが6000立米を受け止めた。もし無ければ、新幹線まで被災していた。ただし、ハード対策の過信は禁物。〔うーむ、渓流釣りに行く毎に、魚道のない砂防堰堤を苦々しく見てきたが、防災面で大きな効果があったんだ。〕

(2)ソフト対応

ハザードマップが有効で、7~8割使える。一方、ハザードマップの危険範囲をこえて災害が起こったケースもあり、さらに向上させるためには、技術士の参画が必要。

 

7.地盤に関わる裁判

どうして訴訟が難しくなるのか? 地面の下がわからないため。地質学の知識が必要。長期化する裁判も多い。

ほとんどが損害賠償請求。(行政訴訟、民事訴訟とも)危機前の潜在リスクの場合は、原告はほとんど勝てない。事故後の顕在リスクでは、原告が勝つことがある。用地境界が、崩壊のどちらにあるかによって論点が変わる。半数以上が和解で終わる。〔できれば、原告にも、被告にもなりたくないものだ。〕

 

8.災害による環境破壊とその保全

人為災害と自然災害が、社会環境と自然環境の破壊に繋がる。例として、天井川は人間が作ったもの。三宅島の噴火で植生が破壊。

 

9.防災と環境保全の共生

いかに自然と調和した防災・減災・縮災を行うかが課題。崖を全てコンクリートで固めれば完全だが、経済的にも、環境の面でも、そのようなわけにはいかない。再生可能エネルギー施設が土砂災害や洪水災害を起こすことも。河畔砂丘をソーラーサイトとして造成したために鬼怒川が決壊した例などあり。地滑り地は生態系の多様性が高い。ゆっくり動く地滑り地では環境保全が出来るのでは? 森林植生により、人工構造物をおぎない、低コスト、耐久性を兼ね備える。〔「環境に優しい」再生エネルギーが災害をもたらす例があるとは・・・・・〕

 

10.技術士の役割と期待

技術士は高度な応用能力を備えている。にもかかわらず、認知度が低く、テレビ取材で肩書きを問われた際に、「技術士」といったら、難色を示された。人口比0.076%の技術士が国民の安全・安心を支えている。〔災害現場の鮮烈な写真が多数紹介されており、危機感が迫ってくる講演だった。〕

 

(文責:赤門技術士会 萩野 新)