◆東京大学三崎臨海実験所見学会 聴講記◆

☆このレポートは、去る2024年3月2日(土)に赤門技術士会主催で開催された見学会の聴講記です。

 

〔そういえば、筆者小学生のころ、最初の遠足は城ケ島だった。大人になってから乗る京急はいつも羽田空港行きで、三浦半島にいくのは何十年ぶりだろうか。2024年3月2日、今日は臨海実験所の見学会。楽しみだ!〕

〔臨海実験所の教育棟に入ると、いきなり大型サメのはく製のお出迎えにびっくり。

そして、二階の講演会場へ。いよいよ実験所所長でいらっしゃる三浦 徹教授の講演だ。事前にチェックしたインターネット動画では、黒髪普通の「東大教授」だったが、実際にお会いすると、なんと金髪にピアスのかっこいい先生!〕

 

Ⅰ.講演「東大臨海実験所における動物進化研究」

 

1.三浦先生のご経歴

インドネシアでシロアリの生態を研究されたそう。シロアリは社会性を持ち、女王アリ、働きアリ、軍隊アリなどに変化、これらをカーストと呼ぶ。細胞分化の過程でカーストが決まる。たとえば、軍隊アリは、大きな頭とあごを持ち、あごで敵を攻撃する。このように、同じ遺伝子であるにもかかわらず、環境で形が大きく変わることを、「表現型可塑性」と呼ぶ。

(1)ヒト:紫外線で色黒になるのや、筋トレでマッチョになるのは、表現型可塑性の例、ただし、ヒトの場合は、異なる表現型の間で分業が進むシロアリほど顕著ではない。

〔大相撲の力士は、やや分業が進んだ例といえるかも?〕

(2)アブラムシ:通常はクローンの子孫を生む。ただし、密度が高くなると死滅し、羽の生えた個体が出現して、別の植物に行く。また、通常はメスしかいないが、北海道のような寒冷地では秋になるとオスが出現して、越冬卵をうむ。このように、繁殖も環境条件で変わる。 

(3)クワガタ:幼虫の時の環境影響によって、オスの体やあごの大きさが大きく変わる。

〔これはヒトでもあるね。江戸時代に比較して、栄養環境が良くなった現在では、日本人の体格は大きくなった!〕

(4)ミジンコ:敵の有無によって、角のあるなしが発生する。

(5)蝦夷サンショウウオ:幼生の時点でオタマジャクシを食べると口が大きくなる。ヤゴが天敵で、水面に上がるときにヤゴに襲われるため、えらを大きく発達させて、空気を吸いに行かなくてもよいように変化する。

〔進化動物学と表現型可塑性の動物学がご専門とのこと、工学部出身の筆者には、ちと、ついてゆくのがしんどい内容だ。。。。。〕

 

2.東大臨海実験所の概要

(1)発祥

1877年エドワー・モース博士(ハーバード大学)がミドリシャミセン貝の採取のために来日し、その後、東大理学部動物学教室の初代所長となった。そして最初に三崎に施設を作ったのが前身。当時は漁師小屋のみだったが、三崎の町の発展で水が汚れてきたため、1898年、当時、討ち死にした三浦一族の亡霊が出るといわれて人が寄り付かなかった油壺湾に面する小網代の現在地に移転した。

〔江ノ島の土産物屋の貝は、珍しいものが多いが、実は三崎で採取されているんだって!〕

 

(2)所在

相模湾につながる小網代湾と油壷湾に囲まれた半島にある広大な実験所で、東大の附属施設として比較的本学に近い。

相模湾の特異性として、つぎの三つがあげられる。

 ①海底地形:3大深海湾(相模湾、駿河湾、富山湾)の一つに面して湾の中に1000m水深の深海がある。

 ②植物プランクトンの適度な分布:東京湾よりきれい、かつ伊豆諸島より栄養豊富。

 ③複雑かつ多様な地形:いろいろな生物の採集実習が可能。

 

風光明媚な場所で、富士山に夕日が沈む。ダイヤモンド富士を見ることもできる。周囲に多様な動物種。

〔おー、次々とスライドに写される生物体の写真集が美しい! 種類別、形態別、色別などなど、プロデュースの力も抜群。〕

 

3.実験所の研究以外の活動

(1)自然観察会

地域への貢献として、自然観察会を実施している。一般の方向けに生物の採取や解説をおこなうもの。新型コロナ禍で3年実施できなかったが、2023年度から再開し2回実施できた。

 

(2)「三浦真珠プロジェクト」

このプロジェクトを中心となって推進している。

〔伊勢志摩で真珠事業を展開するミキモトの創業者、御木本幸吉が明治時代に初めて真珠養殖を成功させたのは、実はこの三崎だったのだそう。〕

養殖技術をこの地で復活させ、アコヤガイと真珠養殖を海洋教育に活用するとともに地域振興を図るもの。臨海実験所とミキモトが産学連携してこの地でアコヤガイを養殖し、できた真珠を横須賀工業高校の学生に研磨・宝飾加工してもらい、地元の観光産業に活用してもらう。現在、第3期にはいっていて、養殖技術を確立し、応用の段階に入ったところ。

 

(3)その他

現在の研究棟は1994年に、今いる教育棟は2020年に、それぞれ完成し、教育・啓もう活動を行っている。棟内には、多くの水槽施設がある。

〔講演の後は、この水槽施設を見学する。楽しみだっ!〕

 

4.臨海実験所における研究の最前線

(1)シロアリ

兵隊アリのカーストでは、頭と大あごが巨大化し、性格もアグレッシブになることから、形態だけでなく神経も「可塑化」していて、このことによってコロニー防衛を可能にした。

 

(2)マクラギヤスデ

ヤスデの仲間では、脱皮ごとに体節と脚が増える「増節変態」という

脱皮するごとに節数と足が増える。一回の脱皮で節が増え、次の脱皮で足が増える

 

(3)環形動物の「シリス」 

ゴカイのなかまであるミドリシリスは、ストロナイゼーションという繁殖様式をもっている。これは、体の一部がちぎれて泳ぎだし、繁殖するという特殊なもの。実際には、体の途中に二つ目の頭ができて、ここから体がちぎれて、二つ目の個体となる。この形態変化には、前後軸に沿って体節を決めるHox遺伝子群の発現も同様に変化することが予想されたが、興味深いことに、Hox遺伝子群の発現パターンはこの過程で変化がないことが示された。

〔うわ、こんな生き物がいるんだ!〕

 

(4)キングギドラシリス

シリスの仲間の中に、頭は一つで、しっぽは多数のものが新発見された、日本映画の怪獣になぞらえて、キングギドラシリスと命名した。

〔これは、クール・ジャパン。〕

 

(5)頭足類(イカなど)の吸盤の形成過程

イカやタコなどの頭足類に特徴的な足の吸盤が、胚珠から幼体にかけて、どのように形成されるのかを研究した。胚珠からの成長において、足先から少し根元側に吸盤原基が発生し、根元に行くにしたがって吸盤となっていくことを、コウイカで解明した。

 

(6)ワラジムシ(等脚類)

甲殻類のなかで特異的に陸上に進出した等脚類は、腹部に「肺」とよばれる呼吸器管をもっているが、この形成過程を研究した。等脚類のワラジムシでは、肺は孵化後の幼体期に形成され、2対ある肺の発生時期が異なることが分かった。

 

〔続いて、「ワレカラの特殊なボディプラン」、「海クワガタの大あご発達」、「縦方向に分裂する無腸動物の繁殖様式」、「動物進化における大革新(メジャー・トランジション)」等、様々なトピックスを説明いただいたが、前述の通り工学部出身の筆者には、理解が追い付かず。。。。。。〕

 

(7)現在、次のような機関と連携を図っている。

 ①東京大学大学院農学生命科学研究科附属水産実験所(在浜松)

 ➁国立大学法人 総合研究大学院大学 統合進化科学研究センター(在葉山)

 ③そのほか三浦半島に存在する教育、研究機関

 

Ⅱ.施設見学

〔技術専門職員・学芸員の幸塚久典様から、懇切丁寧な説明をいただいた!〕

 

1.玄関ホール

冒頭のサメのはく製のほかに、いくつかの展示。なかでも、掲示板は初期の黒板を再利用しているとのことで、裏面には戦時中陸軍に接収された名残で、日本陸軍の落書き「116連隊 3分隊専用」も!

 

2.水槽施設

〔研究棟の奥に水槽施設があった。うわー、すごい。 大小さまざまな水槽に、海洋生物が飼育されている。海洋生物の集合住宅だ。魚類、タコ、ウニ、クラゲ、などなどなど。水槽の数、どうだろう、何百個のオーダーか。毎日世話をするのは本当に大変なことだ。それにしても、油壺の海には、なんて多くの種類の生き物が生息していることか!それに、それぞれ皆、独自の個性を発揮して美しいのは驚きだ!〕

 

各種水槽は、隣接する海からくみ上げた海水を、①かけ流しにしているもの、②僅かずつ足しているもの、がある。②の理由は、かけ流しにすると自然界の病原菌などに罹患するリスクが高まるための措置。

 

〔おっ、小さめのお風呂屋さん湯舟ぐらいの大きさの大型水槽にはたくさんのサメが。数十センチぐらいで、みなおとなしそうなやつばかり。〕

 

Ⅲ.質疑応答

〔講義の後と、施設見学のあとにそれぞれ、活発な質疑応答。かなりのやり取りが理解できず、わかったものだけ記録しておこう。〕

 

Q1:別の生物への応用研究は?

A1:ある現象を発見すると、その現象について生物間の比較を行う。 その生物に特定なのか、それとも共通なのか。将来的には判明した現象を医学や薬学に役立てたい。

 

Q2:脊椎動物と昆虫の特徴的な違いは?

A2:昆虫は、脱皮を機に形を大きくかえる、飛ぶ、という特徴がある。このため、蝶マニアなどのアマチュア研究家が多く、その結果として昆虫のほうが多様であると思われている。

 

Q3:表現型可塑性による形態変化が新種に発展する可能性はどうか?

A3:可能性は大いにある。

 

Q4:これらの研究のめざすところは、どのあたりか。

A4:究極の目標としては、動物進化の全貌を知りたい。研究自体が楽しければ、それでよいと思っている。

 

〔真善美のうち、「善」を追求する工学部の学問に対して、今日のように「真」を追い求める研究があって、しかも超奥深い、ということを実感できた。 ヒトの姿・形や生きざまだけが、当たり前と思って暮らしているが、そうではない美しい世界が無限に広がっていることが、よーくわかった1日! 「真」の追求が「美」の追求へとつながっていました。まさに、東大臨海実験所は、海も陸も含めて動物の形態変化や、進化過程の解明を目指す若者が群れ集まる、動物研究のメッカでした。優れた研究環境で、若い研究者たちが、目を輝かせて、楽しみながら研究している姿が想像できました。〕

 

最後になりますが、多忙な年度末の休日にもかかわらず、赤門技術士会見学会に多大なご協力をいただいた、臨海実験所所長・教授 三浦 徹先生、技術専門職員 幸塚久典様、また事務職員の皆様に心から感謝申し上げます。

                              以上(文責:赤門技術士会幹事 萩野新)