☆このレポートは、去る2021年2月27日(土)、当会が開催した小石川植物園・新温室オンライン見学会(Webによるライブ配信)の聴講記です。
今日の見学会は、本来ちょうど1年前の2020年2月29日に予定されていたもの。新型コロナのため、当時延期を余儀なくされ、オンラインに生まれ変わってやっと実現にこぎつけた見学会。オンラインの見学って、いったいどんな「見学会」になるんだろう!
第一部:小石川植物園の紹介
講師の邑田先生。40年近く植物園で学び・研究をされ、12年も園長を務められたそう。すごい。
スライドショーで小石川植物園の歴史だ。
上空から見た植物園。市街地のなかに、森と日本庭園が見える。
へー、縄文海進の頃にはこの辺りが海岸線だったそう!掘ると縄文土器が出る場所も。1684年徳川綱吉の時代に薬草園としてスタート。1722年に養生所が設置された。明治維新で、東京府そして医学校に移管。そして、植物園になったみたい。1877年に東京大学附属植物園に。
明治29年(ん? いきなり和暦に変わった・・・)、イチョウとソテツの精子を発見だって。 植物に精子? びっくり。花粉の中に入っている精子が水中をおよいで受精するんだって。
明治30年、東大植物学教室が園内に転入。東京芸大の前身もこの植物園内にあったんだって。
ただし、柴田記念館以外は、第二次世界大戦で燃えてしまったんだ。残念。
大正11年には、あのアインシュタインも訪れる。大正12年、関東大震災の後には、避難小屋も。
昭和9年、植物学教室が本郷へ。
昭和14年、本館建築(安田講堂と同じ内田祥三 設計)。戦災は免れる。
昭和55年 東京大学の分類学研究室の転入。以後、植物分類学の世界的研究機関を目指す。
平成16年の独立法人化、中期計画。植物多様性研究をすすめる。そして、植物分類学から植物と昆虫の共生へ
2012年(お、また西暦だ)、文化財保護法の名所・旧跡に。
2008年~、ライフィングリーン計画
2019年、新温室竣工。旧温室の土台を残して造ったそう。
波瀾万丈の歴史、勉強になった。
第二部:小石川植物園 四季のみどころ
第二部は、スライドショーで、見所の草花のオンパレード!
ニュートンのリンゴ、メンデルのブドウ!
早春は梅林がすごい。サンシュユ、フクジュソウ、スイセン。薬草のオウレン。ウチワノキ。
ツバキ園も色とりどり。
春は、桜、ソメイヨシノをはじめとした花盛り。カンヒザクラ、ヤマザクラ、チョウジサクラ、ウコン。
その他にも、ニチリンソウ、ヤマブキソウ、カタクリ、ウラシマソウ。
晩春は、ツツジ。ジングウツツジ、セイシカ、カルミア。
初夏は、フジが鉢植えから盆栽仕立てに。ハンカチノキ、ハナショウブ、ガクアジサイ。
梅雨時期、花はなくても緑に覆われた庭園。ただし、農薬を使わないので蚊が多い。
夏、ソテツ、ノカンゾウ、ヤマユリ。そしてショクダイオオコンニャク、どの年に咲くかわからないやつ。
秋、春より更に風情が。彼岸花。
晩秋、紅葉。カエデ、イチョウ、カリン。イイギリ、コダチダリア、シセントキワガキ。
外にはなくても、温室植物は花が。ツバキカズラ、ヒスイカズラ、アンボレラ。
冬。カンザクラ。雪景色もきれい。
こんなきれいなところなら、ぜひリアルで行ってみなければ!
第三部 園内と新温室の見学
第三部は動画だ!
おー、正門に立派な銘板が。近くにメタセコイアの日本最古の木。なんと化石で「セコイアに似た木」として命名され、後に中国で生きた樹木として発見。
坂をのぼる途中に、精子発見のソテツ。そして、ソメイヨシノの古株、その周りにその蘖(ひこばえ)。
坂を登り切ると、植物園本館。内田祥三の設計で、昭和14年完成の歴史的な建物。屋上からは、池袋のビル群、目前にサクラ広場、右手に大温室がよく見える。
本館からでてみると、サクラの広場。右手奥に柴田記念館。向かいにはシダ園。
少し戻って、薬園保存園。江戸時代に園内にあったと記録される薬用植物を集めている。
反対側に分類標本園。生きた植物図鑑です。エングラーの分類体系に基づき、配列。
その奥に、旧養生所とその井戸、その横にカンザクラ。井戸は、関東大震災のとき、飲み水になったそう。現在でも防災用の施設として、ポンプが設備してあるんだ。
反対側に、養生所跡。近くには甘藷試作跡。青木昆陽が、ここでサツマイモの栽培に挑戦し成功したところ。
ここから温室に向かうと、ロータリーの正面に新温室が。左手突き当たりには、精子発見のイチョウ。温室の前には、旧温室の土台(東京拘置所で作ったレンガの小壁)。右手には旧温室のボイラー跡も。そして、メンデルのブドウ、ニュートンのリンゴ。
さて、冷温室から入ってみる。山地植物や暑さを嫌う絶滅危惧植物などを栽培。
そして、温室5へ。小笠原の絶滅危惧植物の保護・増殖事業。小笠原は、東洋のガラパゴスと呼ばれ、植物たちが短期間で独特の進化をとげた。「適応放散」というそうだ。
温室4から温室3へ。水性植物のための池もある。入ってみるとヒスイカズラ、ワダンノキ。普通は「草」なのに島では「木」になる例。 そして、オオシマコバンノキは蛾の仲間と共生しているそう。
更に温室2へ。カカオノキはチョコレートの原料だ。そしてビカクシダは、2種類の葉をもち、乾期用の貯水組織を持つ葉と、雨期用の葉と。さらにキンカチャは生け花に貴重な黄色いツバキ。アンボレラ、DNA解析により、被子植物の中で、最初に分化した原始的な種であることが判った。そして、ショクダイオオコンニャク、世界最大の葉。ミジンコウキクサ、世界最小の植物。デイゴは、赤い花を持つ。昆虫は赤を識別できないが、赤を識別できる鳥を受粉に利用するのに適応した進化だ。
そして温室1へ。パイナップルの仲間は根が退化し、葉に水をためる。キソウテンガイ(別名サバクオモト)は、アフリカのナミブ砂漠で、数百年の生涯を左右2枚の葉だけで生きてゆく。
最後の温室6(ラン室)へ。ランの他に、サトイモの仲間など温順熱帯の植物。サトイモ科のマドカズラは、葉に穴が空いている。アリノトリデは、アリを体内に飼っている。コチョウランなど、園芸的に花の特殊化が進んだ者が多い。花粉の塊にネバネバがついていて、虫に付くようになっている。
温室をでると、プラタナスの巨木。樹齢100年を超えている。そして関東大震災記念碑。
斜面を下に降りていくと、日本庭園、石組みから見て格式が高い庭園だそう。赤い建物は本郷から移築された旧東京医学校本館で、重要文化財。そして梅林、この下で学士会発足時の記念撮影が行われたそう。
最後に、寄付のお願いがあった。「ライフィングリーンプロジェクト第2期」。
そして質疑。
Q1.異なる環境で育った多種の植物を狭い植物園で育てる苦労は?
A1.元の環境に合った環境を植物園の中で選んでやること。そのためには園内の環境を知っていないといけない。
Q2.現在の研究で、特に注目されている研究は?
A2.サトイモ科の葉っぱの作られ方の系統の研究。芽の中で始まるので、沢山の株が必要。
Q3.園内の管理体制と陣容は?
A3.研究者以外に20名ぐらいいたが、今は研究者4人と事務3人。庭は6人で管理し、他にアルバイト5人。
Q4.展示植物のリストは入手出来ますか?
A4.残念ながら、リストとしては、出せるものはありません。
Q5.老人会として見学したいが、案内はしてもらえますか?
A5.特別な事情が無い限り、案内はしていない。
Q6.土壌によって植える植物を選定していますか?
A6.空き地が出来たときに、そこにあった植物を選んでいる。
Q7.植物園としての将来的な役割は?
A7.憩いの場と、絶滅の防止。
Q8.絶滅危惧種の苦労と成功率
A8.手を掛けると、育つ者とダメになる者がある。育てられない者も多い。
講演が終わって。
「江戸時代にあった小石川養生所の薬草園」の進化形、くらいに漠然と思っていた小石川植物園。現代も研究と種の保存に貢献する植物学の聖地と判りました。学生の頃は10年以上にわたって、すぐ近くのキャンパスに通っていたのに、一度も行ったことがなかった小石川植物園。こんどはリアルで行ってみたい。
(文筆: 技術士 萩野新)
赤門技術士会は、東京大学を卒業した技術士を主要メンバーとする、事務所を持たない交流・親睦団体です。