☆このレポートは、去る2022年2月19日(土)に赤門技術士会主催で開催されたインターメディアテク・オンライン見学会の聴講記です。
1年前の小石川植物園に続いて、2回目のオンライン見学会。今年はインターメディアテクだ。ホームページによると、東京駅のすぐ側、丸の内のJPタワーすなわち、旧東京中央郵便局舎の2・3階部分にある東京大学の学術標本提示施設だそう。長年東京にいるのに、まだ行ったことが無い。どんな「テク」を見せてもらえるのか、楽しみ!
案内してくださるのは、カメラの向こうの館長、西野特任教授。完全生オンラインのようだ。現場のやり取りも、一部オンエアーされ、臨場感も半端ない!いよいよスタート。
館長のご挨拶。インターメディアテクの生い立ちの話しだ。14年前、郵政民営化直後に、日本郵政から旧郵便局舎にミュージアムを、とのお話があったらしい。東京帝国大学時代の資料、当時300兆円企業の日本郵政、丸の内の地、という三種の神器がそろっての事業。文部省傘下の大学と郵政省傘下の会社(いずれも当時)の橋渡しをする、からの命名。準備に3年、開館9周年で三百数十万人もの来場者を記録しているとのこと。無料だそうだから、今度リアルで行ってみよう!
えっ、案内にあった見学順の逆回りだって。これは聴講記者泣かせ。(涙)
(1)3階ユニットワン ~教育用掛図~
「船の科学館」が閉館されるのを機に、戻ってきた帆船の模型。船舶工学・造船学の礎だ。
次は生薬原料、植物の標本。あ、去年の小石川植物園で見た巨大花だ。
特別展「体の形」の解剖学の掛図、今で言えばプロジェクタ代わりに医学部の講義で使われていたらしい。アート&サイエンスだね。学内の画工の方や、芸大の学生アルバイトがドイツ医学の教科書から転写したそう。
そして名古屋万博に展示された尾長鶏の剥製、何とケースは昭和天皇のものだって。へー!
(2)3階コロナード2 ~レプリカの効能~
次は仏像。古い仏像のレプリカを作って、技術の継承、本物が損傷したときの形態継承にするとのこと。学生が卒業制作や博士課程で作ったんだって。本物にしか見えない。
(3)3階コロナード1 ~機械工学の系譜~
失敗学で有名な畑村先生がご退官の際、歴代引き継がれてきた機械の模型を寄贈されたそう。大半は関東大震災で潰れたが、30点ほど生き残っていたらしい。引き受けた当時は油まみれだったそうだが、完全に蘇っている。
次は、電気工学のエラトン先生の机、大きい!タイガー計算機が何台か乗っている。
そして、重要文化財クラスの製図用キット。鯨尺の明治時代に英国から入ってきたセンチ尺、インチ尺。なんと「工部大学」製!エボナイト製の三角定規も。合成素材の走りだ。
(4)2階グレイキューブ ~サウンドの記録と再現~
文化人類学研究室から寄贈された民族楽器。インターメディアテク独自の六角ガラス展示容器に入っている。ユニーク&フレキシブルの容器だ。「この展示容器は、当館オリジナル。ジョイントを付け替えると様々な形に再利用できるので、特許を取っておけば良かった!」とは、西野先生。
そして、江上波夫先生から寄贈のユーラシアの文化財。
東京帝国博物館から譲り受けた、総檜枠のガラスケースに入ったエジソン型蓄音機。
展示物もさることながら、ケースもまた文化財だ!
(5)2階ギメルーム ~歴史的文化遺産の再活用~
工科大学機械工学のイギリス製雲形定規。船舶工学から寄贈されたそう。船底の曲線を作るのに使ったらしい。
そして工部大学校のメートル原器。明治当初にイギリスが配付したらしい。センチ、インチに加え、なんと鯨尺原器も!
更に、数理科学で使う三次元関数の模型。白磁かな?、すごい!今ならCGでつくるんだろうけど。ろくろで作ることが出来ない形もあって、2~3ミリの板を等高線図のように重ねて、なめらかにして製作したんだって。なんたる手の込んだ作り方! 「生産技術研究所の先生が開発した三次元画像処理装置で解析してもらったところ、非常に正確なものであったことがわかった」とのこと。恐るべし、日本の職人わざ。
皇室でなにかお祝い事がある際、招待客にお土産として配られるボンボニェール。純銀製の小用器で、なかに金平糖をいれていたらしい。各宮家がそれぞれのご紋をあしらっているんだって。
ドイツワイマールのハイパーインフレの貨幣・紙幣。そして、ゼロ円札。いまやアートとして金貨より高価だそう。なにそれ?
金沢四高からの理科系の教育教材、天秤ばかりのようなものが見えている。東大、京大では残っていない物が、金沢で残っていた!造形物として美しい。
そして、山科鳥類研からの鳥の剥製だ。なっ何と、昭和天皇のコレクションだって!
階段横には、まるっこい放電装置。銅の均一性が重要だったんだそう。
そしてスカイツリーの鉄骨。「組成は企業秘密なので、聞かない。」そりゃそうだ。旧新日鉄製。
弾性試験機、引っ張り試験器、粗大ゴミになるところを、展示物にしたもの。
(6)2階フォワイエ ~JPとの産学連携事業~
階段教室の再現。たった三段だけど、あの階段教室の重厚な雰囲気がよくでている。
偉い先生の絵画もたくさん。帝大の先生は今の価値で年俸1億円。自費で高名な画家に描かせたんだって。すごい!
35ミリのプロジェクタ。法文2号館にあったので、大学紛争の頃は、この周りで「ワーっ」とやってた。修理に百万円掛かったんだって。
(7)2階コロナード ~SDGsの思想と実践~
古い展示物を無駄にしない方法を開館当時から考えてきたみたい。SDGsの先取りだ。
アルミのお椀状の器材をくっつけて球状にして、テーブルの脚の下駄として履かせていた。
外光を使った展示。スプリンクラー付きの建屋のまま。普通、博物館ではスプリンクラーないよね。
室内の柱も美しいコンクリ打ちっぱなしだったが、表面を剥がしてモルタルを貼り付けてしまった。これは残念。
動物学教室から、カエルの骨格標本。ラベルがないので、ゴミ扱いされていいたものを、拾ってきた!
マッコウクジラのあばら骨。甲殻類標本。みな、捨てられそうな物をもらってきたみたい。
法学部の建屋廃棄の際に、観音開きのドアをもらってきてショーケースに転用した。
大学では期末に予算があまると、キャビネットを買う。そうすると昔の漆のケースなど、美しい物がみな捨てられる。それをもらってきた!
絶滅鳥の骨格と卵。
キリンの骨格とコウモリの骨格標本。高いところのものを捕食するためと、体を軽くするため、という両進化の対比。
どれもユニークな展示物だ!
被爆により、高温にさらされた鉱物のサンプル。学園紛争時に、「放射線注意」と書いておいたら、無くならなかった。投石に最適なサイズなので。笑
シーボルトゆかりの鉱物標本。別の日本の標本をシーボルトに貸したら返してくれず、代わりにボヘミア辺りから出た標本を送ってきたんだって。地下資源の指標になり、国家建設の基礎になる標本なので、けしからんね。その他の標本を含めて、明治政府が、最初に購入したようだ。
(8)2階ケ・ブランリ東京 ~海外機関との学術交流~
メートル級の大型植物標本が展示されている。原寸の迫力満点の展示。オオオニバスも。なんと、布団乾燥機で乾燥させたそう。
海外博物館からもショーケースを廃棄時にもらってくる。これはフランス・リヨンの博物館から。提供してくれた博物館員が来日して、「何でこんな美しいケースを譲ってしまったか」と嘆いたそう。確かに美しい。
そして、世界にひとつの「アインシュタイン・エレベータ」!!! 「多くの学生がアインシュタインにあやかろうと乗ったものの、実はアインシュタインが東大を訪れた後に作られたことが判った!」んだって。お後がよろしいようで。
全体として、凄かったぁ。「これは、リアルで行くっきゃない!」というミュージアムだった。無料だしね!
質疑応答
Q1:収集するための仕組み、収集しようとしている物があれば教えてください。
A1:このような運営形態なので、戦略的な目標は無理。館外からのお申し出についてお受けするかどうかを決める、という方向で進めている。最近では、アインシュタインのブロンズ像、岡本一平作をお受けした。
Q2:学生紛争時に、様々な危機を乗り越えた展示物を見せていただきました。関東大震災、東京大空襲など、他の危機の時は、どうだったのでしょうか。
A2:東京大空襲時には、職員に水筒とヘルメットと防空頭巾が配付された。そういうネガティブな遺産は、残りにくいが、いつか展示できることもあるかと保管している。
関東大空襲で東京大学の3分の2の建物が倒壊した。明治33年パリ万博の写真帳をみると、倒壊以前には立派な遺産がさぞかし有ったのだろうと思う。
一方、歴史的には、多くのものが廃棄されてきた。日本人の悪いところは古い物を大切にしない、良いところは過去のしがらみに縛られず明日のことを考える。学術に対する姿勢は、西洋とは異なり、いろいろな物を捨ててきた。あと10年開館が早ければ、もっと多くの物が残せたと思う。
Q3:収集の考え方はどのようにされているのでしょうか?
A3:基準は、「私の美意識」。どちらか判らない時は捨てない。
国立民族学博物館初代館長の梅棹忠夫先生は、「プラスチック以前のみ取っておく」とされていた。ただし、私は必ずしもそうだとは思わない。
例えば、地質のボーリングサンプル。5億円/本かかったものを用が済んだら捨てて良いのか。将来、何かの役に立つかもしれない。できるだけ取っておきたい。その土や微生物は、大変貴重な試料で有るので。東京大学はこれだけ広大な土地を持っているが、それでも狭隘を理由に様々な物を捨てている。残念だ。
Q4:展示方法の工夫がすごいと思います。これからの更なる工夫はどのようにお考えでしょうか?
A4:大英博物館的な19世紀のミュージアムのムードと、現代のデザイン感覚との間の3世紀に橋を架けるミュージアムをめざしている。ケースのガラスは古いグリーンガラス。照明は、パリのガレリヤや遊歩道を感じさせている。絵の掛け方も、近代の「壁にぴったり」ではなく、19世紀風の斜め吊り。皆さんに、そのようなことを皮膚感覚的に感じていただきたい。
(文責:赤門技術士会 萩野 新)
赤門技術士会は、東京大学を卒業した技術士を主要メンバーとする、事務所を持たない交流・親睦団体です。