◆東大2022HCD・赤門技術士会講演会聴講記◆

☆このレポートは、去る2022年10月15日(土)に赤門技術士会主催で開催された講演会の聴講記です。

 

2022年度東京大学ホームカミングデイ講演会 

「富岳によるSociety 5.0に向けたイノベーション」聴講記

 

〔オンラインのホームカミングデイ講演会も、慣れっこに。今年は、理化学研究所の松岡センター長、って確かノーベル賞の日本人候補に挙がっていた先生! すごい講演だ。〕

 

1. 序章:スパコンは「創ってナンボ、使ってナンボ」

(1)創ってナンボ

スパコンを設計・製作するにあたって、CPU、メモリ、ネットワーク、超高性能ビッグデータAIなど、最先端のITを牽引する。富岳のCPUである「A64FX」は日本の半導体産業の復興の証し。

〔おー、CPUは理研と富士通の共同研究成果だって。〕

(2)使ってナンボ

社会問題への適用や、あらゆるものづくりに、活躍。直近では、新型コロナ対策などに富岳が活躍。現実と同じモデル、すなわちサイバーツインの創造に欠かせなくなっている。

〔そうそう、人が咳き込んだりしゃべったりしたときの飛沫の解析動画を、よくTVでみていた。新型コロナという巨大社会問題の解決にも寄与しているのだ。創ってナンボ、使ってナンボって、かっこよく言うと、「スパコンはDXの礎」だ。〕

2.スパコンの歴史

(1)黎明

1963年の「CDC6600」が世界初。1976年の「Cray-1」は、当時価値で10億円程度。椅子型をしていたことから、「世界で最も高価な椅子」と呼ばれる。

(2)パーソナル化の革命

ワンチップのマイクプロセッサが開発される。1978年日本初パソコン日立Basic Master。ただし演算の早さは、スパコンが格段に上で、1万~100万倍。

(3)並列化の時代

そこからマイクロプロセッサを沢山並べて、役割分担して演算することにより性能を上げる並列化が始まる。ただし、並列台数により性能は増加するが頭打ちも。(アムダールの法則) そのため、初期はスパコン構築技術としての並列化は役に立たないと考えられていた。

1990年代に、アムダール則を打ち破るグスタフソン則が発見され、大規模並列計算機によるスパコンが可能になった。

2002年「地球シミュレータ」の構築費は400億円

2004年IBMの「BlueGene」は「富岳」ができるまで世界最大の規模。この時点では1ノード(チップ)にCPU2個。ちなみに、2011年「京」は1チップに8CPU、2012年 「BlueGene/Q」は1チップに16CPUと増えてゆく。

3.松岡先生の歩み

〔ここからが松岡先生の携われたマシン〕

(1)2006年 東工大「TSUBAME1.0」が日本一に。

(2)2010年 「TSUBAME2.0」 GPUも搭載して省エネ性能世界3位、演算性能世界4位!

〔凄そうだ、というのは良くわかる。が、GPUって何だ?〕 

(3)2013年 「TSUMABE2.5」を「富岳」の前任「京」と比較すると、単精度がほぼ同等。ただし「京」の電気代はTUBAMEの30倍。

〔ペタ・フロップス?うーん、速さや大きさの概念が、化学屋の筆者にはピンとこない。〕

続く「TSUBAME KFC」は油浸で冷却。電力当たりの計算速度(電力効率)で世界一!

〔内燃エンジンなら、水冷、空冷をよく聞くけど、これは油冷?〕

(4)2016年 「TSUBAME 3.0」は、更に2倍の電力効率を目指して、富岳は平行で開発。

〔スライドがほとんど英語になってきて、苦戦。。。〕

(5)2018年 ABCI-AI専用のスパコン 「TUBAME3.0+AI」

4.そして富岳

(1)標高最高かつ裾野の広い富士山から命名した。現在のスパコンの理想像。

〔へー、文春から「スパコン富岳の挑戦」なる本になって出版されるそう〕

(2)目指したこと

     ①スパコン技術の深化と他分野に貢献する計算科学研究開発の基盤

〔おっ、冒頭の「創ってナンボ、使ってナンボ」だ!〕

②シミュレーション・ファーストによるデジタルツイン基盤とSociety5.0の推進

③今後の開発、AI、ビッグデータの科学的探求

④新しいコンピューティング・パラダイムの探求

(3)その凄さ

国家プロジェクトだからできた。

CPUの「A64FX」は、1個でスマホが動くほどの性能+パワーポイントもアンドロイドも載せられる汎用性。 富岳は800万個のCPU! つまり48個の個別CPU×16万個の「A64FX」。

〔スマホ2千万台相当だって。日本の年間売り上げ台数!〕                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               

(4)経緯

2010年 FS開発開始(京も開発中)

2014年 開発プロジェクト開始

2019年 製造開始、名称を「富岳」に決定、12月にテスト稼働開始

2020年 新型コロナへの対応に活用開始、5月に搬入完了

2021年 3月に共用を開始

(5)そのヒミツ

メモリをCPUのすぐ側(チップ内)におくことで高性能化。水冷。

スパコンの世界では5冠。そのうち現在も富岳は3冠を維持。

しかも各種のソフトウエアが動く。つまり、性能と汎用性の両立。

〔「スーパーカーの走り」と「スーパーに買い物に行ける使い勝手」の両立だって〕

一般利用、産業利用、成果創出加速を進めている。

5.「富岳」とSociety5.0

(1)創薬、食料・農業、飛沫評価、室内環境設計、マテリアル、革新的光エネルギー変換材料、スマートシティ、極端風水害の回避、短時間領域スケール予測などに貢献する。

(2)たとえば、新型コロナの対応では、治療薬候補固定、ウイルス飛沫感染の予測と対策、パンデミックおよび対策のシミュレーション解析にも。ウイルス飛沫は、自動車エンジン内の燃料噴霧の研究の延長上。デジタルツインのためCADデータからすぐに作ることができる。

(3)その延長上では、飛行機の開発で、フライトテストをしなくて良いレベルの設計が可能。

(4)また、社会経済現象の将来をシミュレーションすることにより、エビデンスベースの議論が可能に。

(5)すでに「富岳ネクスト」、つまり「富岳」の次を目指した検討をすでに開始している。

 

〔専門用語でわからない言葉も多かったが、いやいや、「富岳」の凄さ加減と、利用の裾野の広さはしっかり受け取れた。満足の講演。〕

  

【講演後の主な質疑応答】

 

Q1:AI用のスパコンと科学計算用のスパコンは、今後どのようになってゆくのか。

A1:ティープラーニング演算は低精度でも大丈夫、しかし科学計算には高精度が必要。今後は、その両方ができないと意味がない。従って、両方のできるスパコンが発達するだろう。

 

Q2:冷却の電力低減はどのような手段か?

A2:まずは水冷化。 液浸冷却で進めている路線もある。

 メンテナンス性から「富岳」のようなパイプを通す水冷が選ばれることが多い。

   さらに、使用していない部分を止めることにより、使用電力の削減を図っている。

 

Q3:「富岳コピー機」の価格は?

A3:小規模の富岳は、いくつか入っている。

 全く同じ規模を仮定すると、概算で、材料費770億円。維持費にその10~15%、具体的には年間電気代41億、メンテ50億円。

 

Q4:「富岳」使用の優先度の決め方

A4:利用に関しては、法律上、理研は決めてはいけないことになっている。

別団体(RISTO)が選定委員会を組織して決める。 60%程度が産業界関連。

一方、「ファーストタッチオプション」という制度があって、申し込めば、ほぼ誰でも使え、ほとんどが無償で通るので、気軽に利用ください。

 

(文責:赤門技術士会幹事 萩野新)